学生時代、家庭教師のアルバイトをしていた。私立名門校に通っている女子中学生に週2回数学を教えたのだ。私は数学は苦手なので、今思うと何を教えていたのか、赤面の至りだが、当時は若くてそんなことは露ほども感じなかった。友人が教えられなくなって、そのかわりを頼まれたのだ。私は英語は得意だが、生徒には英語の家庭教師が別にいた。家庭教師慣れしていて、私が教えるのに困ると、アンチョコと呼んでいた教科書の解説書を私に貸してくれ、「先生、それ見たらわかりますよ」と、教えてくれた。
家庭教師のバイトは食事付きだった。いつも週のうち一回はトンカツであった。
特大のトンカツを称して草鞋トンカツという。出されるトンカツはそれであった。とんかつに豚汁がついてきた。ごはんは丼飯である。あれは生徒の母親が作っていたのか、それとも外から取り寄せていたのかわからないが、カロリーが高いことだけは私にもわかった。そのせいか彼女も彼女の二人の弟も相撲部屋からスカウトされそうな体形をしていた。母親は町工場である家業を手伝っていていつも忙しかったので、今思うに出前の可能性のほうが高かっただろう。
そしてもう一回の食事は中華丼であった。
これはいつも近くの中華料理店からの出前であった。母親がそこの中華丼が好きなのだと生徒がいっていた。白菜、キャベツ、ニンジン、タケノコ、キクラゲ、豚肉、エビ、イカなどを炒めて甘辛のアンでからめてあった。それがご飯の上にのっていた。丸くこんもりと盛られた中華丼のまんまん中にはウズラのゆで卵があった。どう見ても高級店の中華丼ではなかったが、味はよかった。